小川 清史 元自衛隊陸将 の大東亜戦争(アメリカの言う太平洋戦争)を振り返ると、面白いことになる。
もちろん最終的には日本は敗北し、武装解除され、約7年の占領を受けて、アメリカの属国になった。
しかし、アメリカは当初の最大の目的であった、中国、清朝での経済的利益をつかむことに失敗した。
国共内戦でアメリカが支持した蒋介石が敗走して、コミンテルン、中共政権が誕生してしまったのだ。
アメリカは本当は清朝時代に、清の植民地獲得競争に参加したかった。
しかし、アメリカは内戦などもあって、出遅れた。
そこで何とか経済的利益だけは確保しようと考えた。
そこで満州事変、日華事変へと進んだ日本とぶつかり、1940年頃からはアメリカは蒋介石国民党に軍事援助、経済援助を行い、事実上の日米戦争は開戦前に始まっていた。
最終的にアメリカは当初の中国大陸での利権と、販売利益を失った。
また、日本は欧米から、名誉白人と称され、黄色人種なのに白人として扱われていた。
そんな中、肌の色による差別の禁止を、国際連盟で提唱した。
しかし、欧米は、アジアアフリカでのプランテーションの経営などで得られる富を欲しがって、植民地を手放そうとはしなかった。
そんな中、大東亜戦争中に、日本政府はアジア各国のリーダーを東京に招いて、大東亜会議を開いた。
そして、戦争終結後は各国の独立を約束した。
日本の一つの目的であった、有色人種各国の独立という目標は、最終的に達成された。
また、ロシアの南下政策を阻むという目標も、北海道が日本に留めることができ、一応の達成を得た。
日本がアメリカの属国であることは、プーチンに言われなくても明白だ。
しかし、アメリカと日本の当初の目標を考えると、何とも言えない評価になるだろう。
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[戦争目的の達成度でアメリカと日本を比較すると…]【桜林】戦争の目的を達成するよりも、制圧した場所に旗を立てることを重視してしまうイメージでしょうか。
【小川(陸)】大東亜戦争(1941~1945年)を例にあげると、アメリカの主な戦争目的は「中国の市場を獲得したい」
「フィリピンの植民地を保持したい」
それから、「ヨーロッパ正面をドイツの好きにさせない」という3つほどでしょう。
それを評価すると、フランスがドイツに完敗したヨーロッパ正面については、せいぜい引き分け程度。
残り2つの目的は達成できていません。
つまり、アメリカの目標達成は1分け2敗です。
戦争に勝ちにいった結果でそうなってしまった。
一方で日本が目的としたのは、「ロシアの南下を止めたい」
これは江戸時代から変わりません。
次に「植民地を解放したい」
「自由貿易体制の確立(ポツダム宣言にも記述あり)」、これは資源がない日本にとっての活路です。
そして「民族間の差別撤廃(ヴェルサイユ条約に記述を主張するも却下)」
の大きく4つだったのでしょう。
実はこれらの目標は大東亜戦争以降にほぼ達成しているんです、結果的に。
つまり、日本の目的達成としては4勝0敗です。
この大東亜戦争における日米比較が「勝ちを求めると本来の目的がどこかに行ってしまう」の事例ではないでしょうか。
[「戦争や作戦の目的」を分析する視点を持つことが大切]これはユングの言う「集合的無意識論」(個人の無意識のさらに奥深くには、同じ種族や民族、人類などのより大きな集団レベルに共通して伝わってきた無意識があるという考え方)にも近いと思いますが、偶然や幸運に恵まれたことは大いにあるでしょうが日本はそういった目的を常に考えて実際の外交政策で結果を残して来たことになるのでしょう。
小川清史・伊藤俊幸・小野田治・桜林美佐『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析』(ワニブックス)小川清史・伊藤俊幸・小野田治・桜林美佐『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析』(ワニブックス)
戦争に負けて、失ったものも当然多くありましたが、戦争時に考えていた目標(「大東亜を英米から解放、人種差別を撤廃」などを盛り込んだ「大東亜共同宣言」を大東亜の諸国家会議[1943年11月]で共同発表。
一方、英米は2国のみで大西洋憲章を発表)は、実は戦後に偶然のように達成されているのです。
【伊藤(海)】経済的には実際に「大東亜共栄圏」を作っちゃったしね。
ハワイは日本だから(笑)。
【桜林】そういうコンセンサスが、きちんと形になっていたかどうかは別にして、目的を実現してきたのは事実ですね。
【伊藤(海)】明言できたかどうかは別にして、それに似たような目的はあったんだと思う。
【桜林】「その戦争や作戦がいったい何を目的としたものであるのか」という分析の視点を持つことがやはり大切だということですよね。
桜林 美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家
小川 清史(おがわ・きよし) 元自衛隊陸将
小野田 治(おのだ・おさむ) 元自衛隊空将
伊藤 俊幸(いとう・としゆき)元自衛隊海将
https://president.jp/articles/-/60059