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人事部が考えたリストラのすすめ方とノウハウ。一般的なリストラの手法 (ねほりんぱほりん)  

投稿者:ジュリア  投稿日:2022年 3月 4日(金)19時08分7秒 人事部が考えたリストラのすすめ方とノウハウ。一般的なリストラの手法

(ねほりんぱほりん NHK TV 2022.02.25 )



0.2月25日放送『ねほりんぱほりん』
(NHK Eテレ)のテーマは、リストラされた人……ではなく、リストラを告げる「リストラの担当者」であった。

 そもそも、リストラとは「リストラクチャリング」の略語で、会社の事業を再構築することを指す言葉だそう。

 リストラの正式名称なんて初めて知ったし、今ではもはや人員削減的な意味が定着してしまっている。でも、本来は強制的に辞めさせることではないのだ。事実、解雇は日本の法律で厳しく制限されている。そのため、ほとんどの場合は“社員のほうから退職する”という形(建前)へ持っていこうとするらしい。





1リストラの対象は誰でもいい


 今回のゲストは、会社の不採算部門の人事を担当したソウタさん(30代)と、業績悪化で閉鎖する工場のリストラを担当したイチローさん(30代)の2人であった。

 まず気になるのは、リストラされる社員の人選。

 会社の上層部がすでに決めているのだろうか?

 ソウタ 「お上の人からは『いくら減らせ』と」

 YOU  「『20人減らせ~!』って言われて……」

 ソウタ 「いや、お金のほうです、お金」

 山里  「『いくら分の人間は減らせ』って。怖い指示!」

 YOU  「そっか。お給料、みんな違うし」


 コストのほうの数字で指示がくるらしい。

 そして、そこからの人選は人事部に丸投げされる。

 つまり、すべての社員が対象者ということ。

 極論、誰でもいいのだ。上層部にとって、日頃の仕事ぶりや将来性は二の次。

 それどころか、役員1人辞めたほうが浮く人件費は大きくなる。

 では、人事部はどういう社員をリストラ候補にするのか?

 当然のことながら名前が挙がるのは、業績が悪かったり勤務態度が悪い社員だ。

 それでもあまり差が出なかった場合、重視されるのは3つのポイントである。

・家族がいる
・勤続年数が長い
・役職に就いている

「この人たちを切ります。この人たちはストーリーを作りやすいんですね」(ソウタさん)

 イメージとしては逆だ。上記3つは残すべき人たちの条件みたいに思える。

 家族がいたら切られやすいなんて……。

 でも、理由がある。家族がいるとローンがあるので減給は困る。

 だから、「他社で再就職するよ」というストーリーを作りやすいのだ。

 勤続年数が長い人はプライドが高く、降格や異動に対して「イヤだ」と難色を示すため、リストラする側としては思う壺。

 役職に就いている人は、「業績悪化の責任を負う」というストーリーが作りやすい。

 だから、上記の3つのポイントは重視されるのだ。

 ということは、独身の平社員はリストラに遭いにくいのか?

 まあ、平社員を切っても人件費削減という観点では効率が悪いものな……。







2リストラの“理由”は本人から話させる


 続いて公開されたのは、リストラの告げ方だ。

 勤務中に対象社員の背中、肩甲骨辺りを“トントン”と叩き、「仕事中、お忙しいところすみません」と穏やかにニコニコと話しかけ、そのまま別室へ連れていき、テーブルを挟んで向かい合う。

 そして、「なんで呼ばれたかわかりますか?」と問う。

 そこからは沈黙。人事部側からは何も言葉を発さないのだ。沈黙の目的は、自分から落ち度を話させるためである。

 山里  「『今、ちょっと業績悪い件についてですか?』みたいなことを、向こうから出させる?」

 ソウタ 「はい。沈黙はやっぱり耐えられないみたいで、5分とか10分したら勝手にペラペラしゃべり出しますね」

 そもそも仕事中に人事部が来たら怖いし、声の掛け方は文字通りの肩叩き。

 呼んでおいて何も言わないのは恐怖でしかない。

 さながら、“リストラ仕事人”といったところか。

 そして、対象者に心当たりを話させるという狡猾なやり口である。

 はっきりと気持ち悪い。リストラのときにまで忖度を迫るのは、いかにも日本の企業。陰湿だ。

「で、『うちの営業所、業績悪いですよね』なんて言い出したところで、『じゃあ、そのことについてあなた、リーダーとしてどう思います?』

 『何か改善されましたか?』と」(ソウタさん)

 業績悪化の多くは経営の問題である。

 なのに、一個人に重大な責任があったと思わせ、自ら辞職を切り出させようとする胸クソ悪さはどうか。

 決して、会社側から促すという構図を作らないやり口は、裏社会のそれに近い。

 とは言え、頑なに拒否する社員だっているだろう。

 その場合は、次なる手を打つ。


 「こっちの『辞めさせる』ってことは変えずに、手段としてはタイムセールじゃないですけど『今辞めたら退職金をこれだけ上乗せできる』と言うと、みんなこの後の生活が頭をよぎるんですね。

 で、『今しか!』ってこちらから言うと、『サインしたほうがいいんじゃないかな?』って方向にほとんどは傾いていきます」(ソウタさん)

 こんな「今でしょ!」はいやだ。



 リストラ交渉の担当者が自殺する


 もともとは東京勤務だったイチローさんは、ある地方の工場が閉鎖するにあたってリストラを担当した。

 その工場があったのは、彼の地元だそうだ。

 「あえてというか。そのほうが共感しやすい、仕掛けやすいということで人事としてはままあります」(イチローさん)

 対象は、工場で勤務する約200名の従業員全員。

 そのリストラ担当者としてあえて地元出身者を行かせるという非情さに、またしても人事部の怖さを感じた。

 形としては、作業員全員に工場閉鎖を告げて一斉にリストラを目指す。

 しかし、その1年前の時点でイチローさんは工場に着任した。

 リストラを告げる準備に1年かけるということだ。

 「青天の霹靂になると精神的負担がとても大きいので、『なんでこうなった!』ということに突然ならないように、管理職が集まる日頃の会議の場で『景気が悪い』『工場の採算が取れてない』などと伝えたり、工場の中の方々にも『自分たちで考えていかないと、このままだと工場がまずい』と伝えていく」(イチローさん)

 危機感を与えている時点で、工場の閉鎖はもう決まっているのだ。

 空気を作っていくためだけの煽りである。

 そもそも、工場内だけで頑張っていても採算なんかよくならない。

 だから不毛、ただの根回しだ。1年後に閉鎖が決まっているのなら先にはっきり伝え、就活しながら勤めてもらうほうがよいのでは?

 と思わないでもないが……。

 そして、イチローさんが着任してから1年が経った。

 工場閉鎖によるリストラを告げるため、全従業員がホールに集められたのだ。

 閉鎖と全従業員解雇をみんなに伝えたのは、工場長である。

 実は、彼が工場閉鎖の事実を知ったのはイチローさん着任と同時期の1年前。

 もちろん、リストラ対象者には工場長本人も含まれている。



YOU   「工場長の身は持つ、1年も!?」

イチロー 「持た……せてもらいました」

 自分もリストラされるというのに、よく勤め上げられたものだ。

 閉鎖とリストラが発表された瞬間、ホール内は怒号が飛ぶこともなく、落胆の空気が充満していたそうだ。

 全員、閉鎖をなんとなく察していたのだろう。

 1年かけた準備の成果である。

「私の仕事は、リストラを告げるときのシナリオを作ること」(イチローさん)

 シナリオを作る、つまりイチローさんは黒幕の役目を担当した。

 そこからは、工場の各部署の部長が個別の面談を行っていく。

 でも、面談で揉めることはなかったのか?

「大きな揉め事はなかったんですけれど、シナリオに沿ってリストラを告げていただく部長の内の一人が自殺を……してしまいました。

 詳しい理由は私にもわかりませんが、面談の期間中だったので、気を病んでしまったのか……」(イチローさん)

 自殺は会社に対する、もっと言えばイチローさんに対する部長からの訴えである。

「なんで気付かなかったのかと、人事と言っていながら人のことが自分も全然わかっていないなと、痛感しました」(イチローさん)

 イチローさんのしゃべり方が暗い。

 感情を抑えつつ、苦悩がありありと伝わってくる。

 リストラは“される側”も、“切る側”も、そして“切らさせる側”も苦しすぎる。

 「1年かけて準備する方法は間違いだったのでは?」という気が、やっぱりするのだ。






3退職へ追い込もうと、人間を壊す方向に誘導する



 退職合意書にサインしない社員が出てきた場合。

 そういうケースでもやり方はあるらしい。ソウタさんが明かした。

「『残るんだったらば、頑張れるよね? じゃあ、営業目標を一緒に考えようか』って話すんですよ」(ソウタさん)

 そこで本人が「前年の105%を売り上げます」と言ったら、「105%で今の経営状況って打開できるかなあ?」と返す。

 すると、勝手に本人が目標を釣り上げていくらしい。110%、120%、130%……もはや、実現不可能な数字に達している。

 でも、あくまで自ら提示した目標だ。

 自分から言わせるやり口は、やはり反社のそれに近い。

「できるわけないですよ。でも、本人は自分が退職勧奨受けてるんで、頑張るんです。

 休日返上で頑張ったり、夜遅くまで頑張ったり、これをずっと続けてくんですよね。

 3カ月ぐらいそんな状態を経過観察し、その頃には顔色真っ青で話もろくすっぽ聞こえてないですし、もうズタボロですよ」(ソウタさん)

 そのタイミングで「大丈夫か。診てもらったほうがいいんじゃないのか?」と促し、病院で抑うつ状態と診断が出たら本人と相談して休職に。

 そして休職期間が満了すると、雇用は終了である。

 人を壊す方向へ誘導する荒さは、鬼だ。

 彼の狡猾さは悪魔のそれである。会社都合の退職で処理するのではなく、退職の方向に仕向けるだけ。

 そこは、あくまでブレない。えげつなさすぎて言葉を失った。

 仕事上の業務とはいえ、リストラ担当者が行っているのは殺人だ。

 尊厳的な死でもあり、工場で起こったように現実的な殺人でもある。

 ソウタさんの追い込んでいくやり方を聞くと、そう言わざるを得ない。

 彼がリストラのために行った方法に、法律的な問題はないのか?

 番組は多くの雇用・労働問題に関わる鮫島千尋弁護士に話を聞きに行った。

「この事案ですと、いろいろな部分で違法な部分があると思いますね」(鮫島弁護士)

 特に大きいのは、以下の2点だ。




・なんとか自発的に辞めてもらうため、嫌がらせをしている状態。これで労働者は損害を被ったのだから、民法709条(不法行為による損害賠償)の損害賠償責任問題が出てくる。

・売上目標が達成不可能な数字で、会社はそれをわかっているのに本人がうつになるまで仕事をさせ、追い詰めた。労働者の精神面を管理する安全配慮義務に違反している。

 当然である。法律的に明らかにアウトだ。

「人としてやっちゃダメだろう」と憤っていたから、違法と言い切ってくれて救われた。

ソウタさんが行っていたのは違法リストラである。

 ということは、訴えれば勝てる目があるということ?

 でも、この状態まで追い込まれたら本人は正常な判断力を失っているだろうし、退職して逆に解放感を覚えていたかもしれない。

 何にせよ、人間のやる所業ではない。

 鮫島弁護士の解説を聞き、ソウタさんはどう思ったのか?

「思い返せば『ちょっとおかしいな』と思ってたんですけど、もともとは私、専門知識があって人事部に行ったわけではないんですよね。

 本当に一番怖かったのは、やらなきゃ自分が切られるので、そのプレッシャーで必死にやってくしかなかったかなって」(ソウタさん)

 自分が切られないために、誰かを切るという地獄。

 赤軍で起こった内ゲバの構造に酷似している。

「ただ、だんだん『ちょっとおかしいな』と思ったりとか、自分の中で転機になったリストラがあって」(ソウタさん)

 あるとき、ソウタさんがリストラを告げた対象者は50代の男性だった。

 すると、彼は机に額が当たるほど頭を下げ、「息子が今年から大学行くんで、お金が必要なんです。

 もう一回チャンスください」と泣きながら訴えたという。

「大体、私の父親と同じくらいのお年だったんですけどね。

 『この人が自分の親父だったらなあ』とか、初めて相手に感情が入ったかなって。

 『お子さん、どうなのかな』とか『この人、奥さんに何て説明するんだろう』とか。

 人の人生メチャメチャ狂わせてるんじゃないかなあって本当に思って、吐き気がそこから止まらなくなりました」(ソウタさん)

 反省の弁を述べているように見えるが、この時点まで相手に感情が入らなかったとは本当に狂っている。

 会社の価値観に洗脳されていたのか? 50代での再就職は、おそらくかなり難しいだろう。

 切って、もうそれで終わりだというのか? 再就職の支援は?

 ソウタさんは罪悪感を覚えたようだが、罪悪感を薄める方法は他にまだある気がする。




4.リストラを“する側”が“される側”に回る因果




 ソウタさんは、リストラしたある40代の男性からストーカー行為を受けたという。

 会社帰りに待ち伏せされては「よっ、今日もクビ切ったの?」と声をかけられ、同じ電車に乗り込まれては「彼女いるの?」「普段、何してんの?」「趣味は?」と質問攻めにされた。

「とにかく自宅だけはわかられないように遠回りして、逃げることに必死でした」(ソウタさん)

 この付きまといは約1カ月で終了した。しかしある日、家のポストを開けると三つ折りにされたA4サイズの紙が入っていた。

 中を見ると、そこにはソウタさんの本名だけが書かれていた。家が特定されたのだ。

「刺されるなと思って、すぐに引っ越しました」(ソウタさん)

 リストラは“される側”だけでなく“する側”の人生も狂わせる。

 「リストラ担当」は、いわば「恨まれ担当」でもある。

 もちろん、会社は守ってくれない。つまり、ソウタさんたちは使い捨てだ。

 リストラは人事部だけの権限で行えるものではなく、そういう意味で担当者も被害者である。

 それどころか、「リストラ担当になった彼ら自身、実はリストラ対象者だったのでは?」なんてことまでよぎった。

 その後、会社の人事方針に疑問を持つようになったソウタさんは「労務に関する知識を身に着けたい」と働きながら社会保険労務士を目指し、1年後に見事資格を取得。

 務めていた会社を退職し、社会保険労務士に転職した。

 それからは、某企業の就労規則や人事制度を変える仕事をしていたが……。

「今度は、自分がリストラされました(苦笑)」(ソウタさん)

 大型の台風が直撃した際、会社から社員に「家で待機してください」等の連絡が一切なかった事実にソウタさんは激昂。

 管理部門に詰め寄ると、翌日から「今のプロジェクトから君は外す」と窓際に追いやられ、社労士の仕事ではなく営業の業務を振られるように。

 そして、半年後にはリストラ面談が設けられた。

「これはまさに、自分がやってきたことと同じ手口だなと」(ソウタさん)

 因果法則、すべて自分に返ってきたのだ。

 「もうここには残れない」と察したソウタさんは、リストラを受け入れた。

 リストラを“する側”“される側”の両方を体験しているソウタさん。

 人事部→社労士→リストラと、彼の道程はある意味劇的である。

 そして現在、ソウタさんは別の企業の人事部に勤務しているそうだ。

 また、人事かよ!? ここまでくると、ドラマでありカルマだ。

 一方、イチローさんは当時背負っていた「リストラ担当」のポストから解放されようと会社を退職、現在は別の会社で人事をしている。

 彼もまた、人事部なのか……。

 両者ともに、いい思い出がない人事部へ再び行ってしまうのが不思議だ。

 前職が人事部だから、再就職先でも人事へ行く可能性が高くなってしまうのだろう。

 当然、「人事としてリストラを担当した」という経歴に需要もあったはずである。

 今回の『ねほぱほ』は、今までで1、2を争うほどの怖さがあった。

 リストラ担当のつらさを伝える内容でもあったが、強く印象に残ったのは非人道的なリストラのノウハウである。

 そもそも、雇った社員を辞めさせないとダメな経営はしないでほしい。

 リストラしなければならないほどの経営悪化は、上層部の失敗が発端のはずだ。

 だから、経営陣から責任を取るのが筋。

 こんな酷いリストラ勧告をさせないために、組合組織の強化が必要とも感じた。

 そして、胸が痛かった。
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